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うつの回復過程~その5・社会復帰編~



●前回までのおさらい。
長い療養期間を経て、体が動かせるようになってきました。
食事や運動、睡眠等も整ってきました。
まだ体調が優れない日もあるかもしれません。
でもそろそろ、お家での療養から次のステップに移りたい・・・

そんな気持ちがわいてきた方に今回の記事をお読みいただければと思います。
まだその段階に至っていない方には、これまでの
『うつの回復過程』
『うつの回復過程その2』
『うつの回復過程その3』
『うつの回復過程その4』

上記の記事をご覧の上、ご自身の心と体のリハビリに専念くださいませ。


●まずは自分の体力と調子のムラを理解しましょう
自宅療養から次のステップに移るにあたっては、この体力と調子のムラが
次のステップを選択する上での重要なカギとなります。

①今現在、一日8時間、週5日働ける体力がありますか→Yes
      ↓NO
②過去に一日8時間、週5日働いていた期間が少なくとも
 直近で5年以内に1年以上ありますか?       →Yes
      ↓No
③時間や日数の都合上フルタイムで働く事は難しくとも
 短い時間や少なめの日数で働いていた期間がここ5年以内にありますか?→Yes
      ↓No
④お仕事のブランクを問わず、定期的にデイケアや施設等で訓練を
 受けてきた経験がありますか、あるいは今も続けていますか? →Yes
      ↓No



さて、ここでフローチャートのように、Yes,Noと整理をしてきましたが①でYesだったらフルタイムで働けます、②でYesだった方にはこう・・・という話をしたいわけではありません。あくまで客観的にご自身の体力を把握するための自問自答を、こうした形で整理されることを、お勧めしたいのです。

質問項目は変えてみても構いません。
例えば「自転車で1時間程度移動できる体力がありますか?」
「1時間程度の簡単な作業課題に集中して臨むことができますか?」

また、就職等を考えていらっしゃるのであれば必ず主治医とご相談ください。

このようにして現状のご自身の体力面について分析できたら、次のフェーズに進みましょう。


●働き方の選択肢を知る
高校や大学を卒業して、就職してずっと同じ環境で働いてきた、という方にとっては社会復帰=フルタイムで働く事、という選択以外にご存じない方も少なくないのではないでしょうか。まずは働き方の選択肢について視野を広げてみましょう。


確定申告が必要なサラリーマンと必要ない場合でもした方が良い場合とは ...
・一般就労(クローズド)
うつ病などの精神疾患について職場には一切伏せて就職をする選択です。ここでいうクローズド就労はアルバイト、パート、期限付き雇用、正規雇用非正規雇用、いずれの場合も含みます。
職場の人に話すことで偏見を持たれるかもしれない、あるいは他人に迷惑をかけるわけにはいかない、今までと同じように働けて当然だ・・・このクローズドという選択をされる方の多くはそうした考えをお持ちであるという印象を私は持っています。一方で、このクローズドの選択をされる方は「職場内で体調が悪くても相談ができない」というデメリットを抱え、再発するリスクが高いという懸念があります。地方によっても状況は異なると思うので、他に選択肢がないという方もいらっしゃるかもしれませんが、クローズド就労を目指されるのであれば、体力、メンタルともに万全を期して臨まれることをお勧めしたいと思います。


・一般就労(オープン)
こちらは障害者雇用枠でなくとも、面接や就職後等にご自身の症状について上司等一部の方に説明し、理解を求める働き方です。面接などで「正直に自分の症状について話したら不採用になるかもしれない」とのご不安から、ご自身の症状などについて一切伝えないという方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、例えば「精神保健福祉手帳を所持していない」となると障害者雇用枠には応募条件から満たされていないので難しいのですが、「手帳は持っていなくても自立支援医療制度を利用している」という方はとても多いです。この場合、ご自身の症状について正直にお伝えした上で「体調が悪化した時にはお休みをいただくかもしれませんが、自分のスキルや経験を御社で活かしたいのです」というご自身のお考えをお伝えいただく事で、相手の企業側も「それを踏まえた上での採用不採用を検討してくれる」事につながります。
正直に伝えた上で不採用となるのであれば、「そもそもその会社ではクローズドで働いたとしても、いずれは体調を崩した時に理解を得られず辞める事になる」もとよりご縁のない会社だったと考えれば、不採用で傷つく必要もなくなる事でしょう。



・障害者雇用
これは、「精神保健福祉手帳」をはじめ、いわゆる障害者手帳をお持ちの方を対象とした求人から応募する働き方です。

障害者雇用率」について、分かりやすく解説します。 | atGPしごとLABO

企業には、雇用人数のうち一定数の割合で障害者手帳所持者を雇わなくてはならない、という国が定めたルールがあります。これを法定雇用率とよびます。この法定雇用率は近年段階的に引き上げられており、2021年度4月からまた引き上げられる予定です。
この数値を満たさない企業にはペナルティーが発生する一方で、この基準を満たしている企業には税制上の優遇措置があります。つまり、「企業側には手帳を持っている方を採用するメリットがある」という事です。
ただ、手帳を持っていればどんな人でも採用をするという事ではなく、やはり企業が求める一定の人材基準を満たす方を採用します。障害者雇用求人の中には「採用の前に事前に実習を設けている」ところも少なくありません。これは、企業と応募者とのミスマッチをなるべく防ぐこと、応募者にも採用側にも「実際にその方に現場で実習をしてもらうことで働きぶりや適性をみきわめられる」というメリットが双方にあります。

新しい環境や慣れない人に囲まれる中で、うつ症状等のメンタルの症状は悪化しやすい傾向があるため事前にこうして職場の環境や一緒に働く人たちの人柄を知れるというのは、働き手側にとってもメリットといえるでしょう。

障害者雇用枠での求人を探す場合、少し前だとハローワークが一般的でしたが最近では大手転職サービス会社等も「障害者雇用専門の転職サイト」を立ち上げる等、企業側も力を入れています。ハローワークだけでなく、いくつかの障害者雇用転職サイトやエージェントを活用することで、よりご自身のニーズにあった就職先が見つかりやすくなるでしょう。


・福祉的就労
福祉的就労とは、障害者総合支援法に基づいて運営される「就労継続支援A型」および「就労継続支援B型」と呼ばれる福祉サービスを提供する事業所で働く事です。
食品工場の従業員のイラスト(エプロン付き)倉庫のピッキング作業のイラスト(男性・ボイスピッキング)

A型:雇用契約を締結する、最低賃金を保障する
B型:雇用契約を結ばない

ざっとこのような違いです。業務内容は事業所によって多岐にわたります。
検品、製本、製菓、農園、リネン、リサイクル、等が比較的多い印象ですが近年ではWeb制作を請け負う等のお仕事もあるようです。福祉的就労をされる方は「福祉サービスを利用する利用者」という立場でありつつ「当該事業所で働く作業員である」という2つの側面を持っています。昔の授産活動をイメージされる方には「給料が低いのでは・・?」と懸念される方もいますが、驚くなかれ大卒初任給程度の工賃が出る事業所もあります
事業所側も「高い工賃を支払う事が利用者獲得につながる」という側面と「収益性のある事業展開をすることが工賃の向上につながる」という側面があるため、ビジネスモデルとして成功する事が結果として、利用者(被雇用者)にとっても事業所にとっても利益につながる、という構造になっています。

福祉的就労についてはあくまで障害福祉サービスですので、ハローワークなどではなくお住いの障害福祉課や障害者相談支援センター等にご相談ください。


・個人事業主
読んで字のごとく、個人で事業を始めようという働き方です。新しく事業を立ち上げるというのは、とてもエネルギーもかかり、お金も多額の借金をする・・というイメージがあるかもしれません。間違いなくエネルギーはかかります。
バーチャルYouTuberのイラスト


ただ、個人事業主の手続きをすること自体は非常に簡単です。税務署に必要な書類を提出する、ただそれだけです。問題はどんな事業で収益を得るか、ですね。イメージしやすいところだとYoutuber等でしょうが、そうは言っても実際に生活ができるほどの収益を上げられる方はごく一部です。個人で株の売買をして収益を得たり、あるいはアフィリエイトやイラスト、プログラミング等を個人で受注する、手作りの雑貨等をネット販売する、という方もいらっしゃいますね。
個人事業主は働き方の選択肢として視野に入れていただく事は良いのですが、それ一本で収入を得て生活していく、というのはなかなかにハードルも高い道のりです。収支の管理、確定申告など様々な面倒な手続きもあります。そうした金銭の管理のノウハウや、そもそも事業がビジネスモデルとして成立しうるものかどうか、といった点については地域の公民館や市役所、区役所等に足を運んでみると「無料で税理士と相談ができるイベント」「無料で広告デザインについてアドバイスを受けられるイベント」などもあります。
是非とも地域の様々な専門家の知恵を借りながら、より現実的に継続可能な収益化方法を模索していきましょう。



●今すぐ働く、以外の選択肢もあると視野に入れておく
今すぐに働くのではなく、例えば何らかの職業訓練を一定期間受けることを通じて生活リズムや体力の改善を図り、より就職後に近い生活リズムで暮らすことで就職の選択肢を広げる、焦らずじっくり訓練を受けて新たなスキルを獲得し、新しい生き方を見つける、そういった選択肢も視野に入れておくことをお勧めします。

・職業訓練校
ハローワークを通じて紹介を受ける事で、様々な職業に就くためのスキルを学ぶ為の訓練を受けられます、職業訓練期間中には訓練給付を受け取ることができます。
職業訓練の内容も近年多様化してきており、中にはAIのプログラムを教えている所もあるようです。これも訓練内容は地域によって異なりますので、詳しくはお近くのハローワークや職業訓練校のサイトからお調べください。
勉強会のイラスト

・就労移行支援
こちらは就労継続支援と同じように福祉サービスの一つです。職業訓練や生活支援、就労に向けた支援等を受けられる福祉サービスで、提供している職業訓練は事業所によってさまざまです。最近はIT系のプログラミング等を教える事業所や、発達障害の方の支援に特化した事業所等、事業所ごとの特色が打ち出されてきているようです。
就労継続支援と異なる点は、あくまで「次のステップとして一般就労を目指す」支援を提供しているため工賃等は特に設けていない場合もあります。また、一般就労を目指すために就労移行支援事業所に通える期間は2年間という定めがあります。

最近では在宅就労という、家にいながら仕事をするという働き方を応援する事業所もあり、その中で「訓練もオンラインで受ける」というスタイルもこのコロナ禍で広まっているようです。人混みや通勤ラッシュが苦手な方にとっては新しい働き方の選択肢が増える事はありがたいですね。

また、就労移行支援に通うメリットとして、就職後も半年間はアフターフォローをしてもらえる、という点が挙げられます。働き始めて慣れない環境の中で上司にうまく相談できない時、これまで通っていた就労移行支援事業所のスタッフを通じて相談してみる事で、働く中で困っていることを解決しやすくなります。



・生活介護事業、地域活動支援事業
こちらも障害福祉サービスです。ただし、就労というよりは「日中活動の場を確保する」事が目的です。最初にお伝えしているように、「働くことだけが次のステップ」ではありません。同じように症状に苦しんでいる方々と一緒に趣味や活動に従事し、話し合ったり、スタッフに悩みを相談し具体的に解決する手立てを考えてもらう等を通じて生活の質を向上させることを目的としています。
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同じような日中活動の場の確保やピアグループ(同じ悩みを抱える集団)活動を提供する場として、病院のデイケア等も挙げられますね。病院のデイケアの場合、看護師や主治医との連携もスムーズにできることは心強いかと思います。





はい、ここまでの所で自宅療養が安定してきた方に向けた次のステップについてご説明をしてきました。長らく闘病されている方にとっては当たり前に感じられるお話もあったかもしれませんが、改めて「こんなにもたくさんの選択肢があったのか」と感じられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ご自身の生きやすさ働きやすさ、幸せ、生活の充実、といった観点から、次のステップについてじっくり考えていただきたいと私は思っています。その中でご参考になる部分が少しでもあれば、幸いです。


1か月にわたって長らく続いてきた「うつ病の回復過程について」シリーズ。
ここで終わり・・・かと思いましたが、どうも気になることがあります。

それは「みなさん、就職出来たらゴールだと思っていませんか?」
ということです。就職後にも、あなたの人生は続きます。
病気の症状とのおつきあいも続いていきます。

困ったとき、どこに、誰に相談したらよいのか・・・

次回「うつの回復過程~その6就職、その後~」でまとめていきたいと思います。
いつからサラリーマンは誇りを失ったのか - 元気なる×なる!Hitorigoto






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